拙著『運を活きる』からの引用です。
お墓を考える時の支えになれば、と思います。

 

 

そのお寺は、瀬戸内海の小さな島にあるという。

「義父の17回忌を最後に、菩提寺から離れて、近くの霊園にお墓を移そうと考えていました。そのお墓には、主人の父と母、祖父や祖母、代々のご先祖様が納めてあります。

でも、私も主人も東京で育ちましたし、その村には、もう父の親戚もいないんです。
息子ふたりも、東京と川崎で家庭をもっているし。

なにしろ、遠くて。 東京から広島まで新幹線、そこから尾道まで行って、船に乗って・・・ とても、日帰りは無理。

そのお寺の和尚さんは、とても気さくな優しいおじいちゃん。 「ここまでのお参りも大変ですね。お近くに移されてもいいですよ」って、言ってくれて。

 

正月に、主人や息子たちとも話し合ったんです。 そして、今回の法事を機にお墓を移す事をお願いするつもりでした。

 

でも・・・。
5月、お寺に向かう船で、初めて気づいたんです。 みかんの花の香りに。

その島に近付くにつれて、とてもいい香りがして、白い花が輝いて見えました。 そして、たくさんの蝶が舞っていて、とても奇麗だった。 ああ、こんなに素晴らしいところはないな、って。

 同船していた主人や息子の家族に伝えました。 みんな、感動してしまったの。

 

お墓を移す話は、しませんでした。

私ね、今、あのお墓に入りたいなって、思っているの。
だから、離婚とかにならないようにしないと、ってね。
だって、離婚しちゃったらあのお墓に入れなくなるでしょう・・・

 

私たちが、あのお寺のお墓に入る事になれば、子供たちも大変かもしれない。 なかなかお参りには来れないだろうし・・・経済的にも時間的にもね。

 

でも、法事じゃなくても、時間が空いた時とか、人生に躓いた時や疲れた時に、 私たちに会いに来てくれたら、あの島に来てくれたら・・・ きっと、また、力をもらえたり、もう一度、頑張れる勇気を得ると思うの。
そうね、5月がいいわね。 みかんの花が咲く頃が・・・」

 

門前に住んだからとて、信心深くなるものではない。
お寺に生まれついたからとて、仏縁が育つものでもない。
葬儀や供養の業界で働いても、目に見えるものしか信じない者もいる。
いつも、近くや便利な所ばかりに答えがあるのではない。