未見の我 安積得也    

 

昼なお暗き大森林の
何千億の樫の葉から
一番よく似た二枚を採って較べて見る
不思議だ
一枚だって同じものはないのだから
植物学者の語る事実が
鋭い暗示を
人間個性の問題に投げかける

人皆(ひとみな)の声が違うように
人皆の可能性が
おのがじしなる持ち味を蔵している
愕(おどろ)くべき真理だ

お互一人一人が
夫々に天下一品の特質を
おおいなるものから授かっているとは

人みな英雄!
そうだ
内に隠れて見えないけれども

現在(いま)こそ内に眠り底に潜んで
自分にも他人にも発見(わか)らないけれども

五尺の我のうちにこそ
未見の我の偉大な姿が隠れているのだ

ありがたや
自分の中には自分の知らない自分がある

強くして能あり
清くして正大なり

現在の我とは比較にもならぬ

未来相の我だ

私はもう私を見くびらない

弱小の私
無能の私
あやまち多い私

しかし私は未見の我の故に

私の全身全霊を愛惜する

彼はつまらぬ奴だ
馬鹿なまねをしやがった

しかし私は彼を見棄てない

彼の内なる未見の彼を
私は限りなく尊重する