仏教界隈1 おたがいさま                                        こおりやま ゆう 不定期連載

 

飯田橋の東京逓信病院で白内障の手術をした。二泊三日だ。

 

同じ日程の九二歳の老婦人と仲良くなった。彼女は「東京オリンピックをクリアに見たい」がために手術を決断したという。そして、はにかんだ笑みを浮かべながら「あと何年生きるか分からないけどね」と付け加えた。

 

そこで、私はわざと惚(とぼ)けてみた。「あと何年かじゃなくて、あと何日かの間違いじゃないの?」

 

彼女はやんわり笑って「それは、おたがいさまよ」と、私の肩を軽く叩いた。私は「参りました」と頭を下げた。

 

確かにそうだ。私たちの命に保証はない。ある日、病を告げられることもあれば、事故に巻き込まれることもある。私の身体ではあるのだが、私の思い通りにはならない。

 

生老病死は、私たちが頭の中で作り上げたものだけではないのだ。そこには人智の及ばない「いのち」の世界が開かれている。それを、ある人は神の恵みと言い、ある人は仏のはたらきと手をあわす。

 

退院した日の喫茶店。
よく見えるようになった私たちは「これからは目に映る事柄を嫌わないで、愛おしもう!」と再会を誓った。