郡山駅の新幹線ホーム。一人の老婦人が「和尚さん」と声をかけてきました。振り向けば、手に千円札。思わず合掌し、それを受取ろうとしたら・・・「和尚さん、両替して!」

 

たしかに頂戴する理由はありませんが、少し損をしたような気がいたしました。頭を剃っておよそ20年、私は何を学んできたのでしょうか。
「何かを得ようとするのではなく、何かを捨ててみよう」と口にしながらも、そうではない自分がいました。人生の折り返し地点をとうに過ぎたにも関わらず、「手放す・与える」ことよりも、「得る・集める」ことを未だ願う私がいるのです。

 

もちろん、「得る・集める」ことも大切な営みです。けれども、際限なくそれを求めてしまえば、やがては「奪う・盗む」世界に足を踏み入れてしまうことでしょう。

 

しわくちゃの野口英世が、私の心の澱を指差してくれました。「手放す・与える」ことをいつも心得なさい、と。そして、「手放す・与える」ことから齎(もたら)されたものを潔く受け取るのだ、と。

 

世の人に欲を捨よと勧めつゝ跡(あと)より拾ふ寺の住職 『二宮翁夜話』