六十歳で急逝した父の葬儀。弔辞の時、祭壇を前にして娘さんが絶叫した。
「お父さん、ごめんなさい!」

 

嗚咽を抑えて、彼女は遺影に向かって語り始めた。それは・・・中学生の頃から、父親の意見に反発する事が増え、顔を見るのも嫌になったこと。高校を卒業し、逃げるように仙台に就職したとのこと。以後、帰省はせず、父親には連絡をしなかったとのこと。訳あってシングルマザーとして出産し、子供を連れて実家に戻ったこと。再び一緒に暮らし始めても、父親を避けていたこと。

 

彼女は涙に声を詰まらせながら、「でも、いつか必ずお父さんとゆっくりと話をしたり、旅行に行ったりできると思ってた。そして、ありがとう、と伝えたいと思ってた」と語り、「それができなくなって、本当にごめんなさい」と頭を下げた。

 

吉川英治氏は「仏壇は後の祭りをするところ」と吐いた。今思えば、親の言うことを聞いとけばよかった。もう少し優しい言葉をかけておけばよかった。あそこに一緒に行っておけばよかった。そう、故人を偲ぶ時間は心が揺さぶられる時間でもある。

 

してしまったことは、なかったことにはできない。でも、「後の祭り」ができるのは、その人が大切な人だから。